手に 収まる 古い 鉋には、 糸を 引く ような 細い 傷が 斜めに 走ります。 山小屋を 建てた 年の 霧雨で できた 溝だと 父は 笑い、 同じ 向きに いまも 引き目を 揃える。 誤差の 線が、 家の かたちを 守って きました。 道具も 家族も 歴史を 手に 持つ。
放牧の 鐘は 音量では なく、 谷で 混ざった ときの 響きで 良し悪しが 決まる。 谷風の 速さ、 岩壁の 反射、 草丈の 揺れを 想像し、 手で 微妙な 厚みを 変える。 遠くの 羊飼いが 帰路を 迷わぬよう、 音で 道を 灯します。 見えない 地図を 金属が 描き 互いを 導きます。 静かに。
All Rights Reserved.